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固定法と固定液‐一般的な固定液

Geoffrey Rolls BAppSc, FAIMS

固定法と固定液シリーズ第4部では、過去100年間に組織学的検査で使用されてきた多数の一般的で伝統的な固定液のうちいくつかを紹介します。また、登録商標のある固定液についても概説し、実際の使用に際してどのように固定液を選べば良いのかについてのアドバイスも提供します。

一般的な固定液

一般的で伝統的な固定液のいくつかを以下に示します(詳細は各行をクリックしてください)。これは決して完全なリストではありません。というのも、過去100年以上の間、文字通り何百種類もの異なる固定液と固定液の混合物が公表されているからです。主要なグループを代表するものを選択しました。これらの試薬のいくつかは、業者から購入し、すぐに使用することができます。 1-4

  1. リン酸緩衝ホルマリン
  2. ホルマリンカルシウム
  3. ホルマリン生理食塩水
  4. 亜鉛ホルマリン(バッファリングなし)
  5. ツェンカー固定液
  6. ヘリー固定液
  7. B-5固定液
  8. ブアン液
  9. オランド
  10. ゲンドル液
  11. クラーク液
  12. カルノア液
  13. メタカーン
  14. アルコールホルマリン
  15. ホルマリン酢酸アルコール
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ホルマリン酢酸アルコール 図1:市販の「濃縮液」。水で希釈し、中性の緩衝ホルマリン溶液を調製する。

1. リン酸緩衝ホルマリン固定液

調合

  • 40%ホルムアルデヒド:100 ml
  • 蒸留水:900 ml
  • リン酸二水素ナトリウム・一水和物:4 g
  • 無水リン酸一水素ナトリウム 6.5 g
  • この溶液のpHは6.8になる
  • 固定時間:12~24時間

推奨用途

日常的な組織病理学検査で最も広く使用されている ホルムアルデヒドベースの固定液 緩衝液がホルマリン色素の形成を妨げる傾向があります。多くのエピトープは、IHCを成功させるために、この固定液の使用後に抗原賦活化を必要とします。ほとんどの病理学者は、このタイプの固定液で生成された形態を解釈することに抵抗はありません。

2. カルシウム・ホルマリン固定液

調合

  • 40%ホルムアルデヒド:100 ml
  • 塩化カルシウム:10 g
  • 蒸留水:900 ml
  • 固定時間:12~24時間

推奨用途

脂質、特にリン脂質の保存のために推奨されます。

3. ホルマリン生理食塩水

調合

  • 40%ホルムアルデヒド:100 ml
  • 塩化カルシウム:9 g
  • 蒸留水:900 ml
  • 固定時間:12~24時間

推奨用途

この等張食塩水中のホルムアルデヒド混合物は、リン酸緩衝ホルマリン導入前は、組織病理学検査に日常的に広く使用されていました。ホルマリン色素を生成することがしばしばあります。

4. 亜鉛ホルマリン(バッファリングなし)

調合

  • 硫酸亜鉛: 1 g
  • イオン交換水:900 ml
  • 攪拌して、溶解させ、次に以下のものを加える
  • 40%ホルムアルデヒド:100 ml
  • 固定時間:4~8時間

推奨用途

亜鉛ホルマリン溶液は、塩化水銀製剤の代替品として考案されました。これらの固定液はIHCの結果を改善すると言われています。硫酸亜鉛よりわずかに腐食性が高いと考えられている塩化亜鉛を含む多数の代替調合が利用可能です。

5. ツェンカー固定液

調合

  • 蒸留水:1,000 ml
  • 塩化第二水銀:50 g
  • 重クロム酸カリウム:25 g
  • 氷酢酸:50 ml(上記950mlに対して)
  • 固定時間:4~24時間

推奨用途

核は良く保存されますが、酢酸の存在により赤血球を溶解します。鬱血した標本に推奨されており、PTAHおよびトリクローム染色で良好な結果が得られます。水銀色素(ツェンカー結晶)を生成するので、染色前に切片から除去する必要があり、処理前に組織を水で洗浄しないとクロム色素を生成する可能性があります。不耐性物質なので、水で洗浄した後、組織を70%エタノールで保存する必要があります。

6. ヘリー固定液

調合

  • 蒸留水:1000 ml
  • 重クロム酸カリウム:25 g
  • 硫酸ナトリウム:10 g
  • 塩化第二水銀:50 g
  • 使用する直前に以下を加える
  • 40%ホルムアルデヒド:50 ml(上記950mlに対して)
  • 固定時間:4~24時間

推奨用途

骨髄、髄外造血および心筋の介在板に適していると考えられています。

水銀色素を生成するので、染色前に切片から除去する必要があり、処理前に組織を水で洗浄しないとクロム色素を生成する可能性があります。不耐性物質なので、水で洗浄した後、組織を70%エタノールで保存する必要があります。この固定液のpHは低いので、ホルマリン色素も生じる可能性があります。

7. B-5固定液

調合

原液

  •  塩化第二水銀:12 g
  •  無水酢酸ナトリウム:2.5 g
  •  蒸留水:200 ml

作業用溶液、使用直前に準備

  • B-5原液:20 ml
  • 40%ホルムアルデヒド:2 ml
  • 固定時間:4~8時間

推奨用途

水銀含有量とそれによる廃棄の問題にもかかわらず、この固定液は造血組織とリンパ組織の固定によく用いられます。極めて良好な核の詳細が示され、多くの特殊染色で良好な結果が得られ、IHCに推奨されています。切片を染色する前に、水銀色素を除去する必要があります。組織はこの固定液中で保存せず、70%エタノールに入れてください。

8. ブアン液

調合

  • ピクリン酸飽和水溶液(2.1%):750 ml
  • 40%ホルムアルデヒド:250 ml
  • 氷酢酸:50 ml
  • 固定時間:4~18時間

推奨用途

後でトリクローム染色される組織で非常に良い結果が得られます。グリコーゲンをよく保存しますが、通常赤血球を溶解します。胃腸管生検、動物の胚、内分泌腺組織に推奨される場合があります。ピクリン酸により組織を鮮やかな黄色に染色します。染色する前に、過剰なピクリン酸を70%エタノールで組織から洗い流す必要があります。酸性なので、小さなカルシウム沈着物や鉄沈着物がゆっくりと除去されます。

9. オランド

調合

  • 酢酸銅:25 g
  • ピクリン酸:40 g
  • 40%ホルムアルデヒド:100 ml
  • 酢酸:15 ml
  • 蒸留水:1000 ml

化学薬品を加熱せずに蒸留水に溶解します。

  • 固定時間:               4~18時間

推奨用途

消化管の標本や内分泌組織の固定に推奨されます。ブアンよりも溶解が少なくなります。脱灰特性が若干あります。

処理装置でリン酸緩衝ホルマリンに入れる場合は、不溶性のリン酸塩沈殿物が形成されるため、固定液を組織から洗い流す必要があります。

10. ゲンドル液

調合

  • ピクリン酸で飽和した95%エタノール:800 ml
  • 40%ホルムアルデヒド:150 ml
  • 氷酢酸:50 ml
  • 固定時間:4~18時間

推奨用途

これは、熟成により質が向上するとされるアルコールブアン液です。グリコーゲンや他の炭水化物の保存に強く推奨されています。固定後、組織を70%エタノールに入れます。残留する黄色を染色前に洗い流す必要があります。

11. クラーク液

調合

  • エタノール(無水):75 ml
  • 氷酢酸:25 ml
  • 固定時間:3~4時間

推奨用途

凍結切片や塗抹標本に使用されています。固定時間が非常に短い場合は、通常の処理後に平均的な結果が得られます。核酸は保存しますが、脂質は抽出されます。組織を95%エタノールに直接移動することができます。

12. カルノア液

調合

  • 無水エタノール:60 ml
  • クロロホルム:30 ml
  • 氷酢酸:10 ml
  • 固定時間:1~4時間

推奨用途

すばやく作用し、核保存が良好で、グリコーゲンを保持します。赤血球を溶解し、脂質を溶解し、過度の硬化と収縮を引き起こす可能性があります。

13. メタカン固定液

調合

  • 無水メタノール:60 ml
  • クロロホルム:30 ml
  • 氷酢酸:10 ml
  • 固定時間:1~4時間

推奨用途

カルノア液と同様の特性を有していますが、収縮と硬化は少なくなります。

14. アルコールホルマリン

調合

  • 40%ホルムアルデヒド:100 ml
  • 95%エタノール:900 ml
  • 0.5 gの酢酸カルシウムを追加して中性を確保することができます
  • 固定時間:12~24時間

推奨用途

変性固定液とホルマリンの相加効果・架橋効果とを組み合わせます。不完全な最初のホルマリン固定後に、固定を完了するための処理中に使用されることがあります。これにより、脂質が除去・抽出され、リンパ節がより簡単に検出できるようになるので、大きな脂肪標本(特に乳房)の固定または後固定に使用できます。最初の固定に使用する場合、標本は95%エタノールに直接入れて処理することができます。

15. ホルマリン酢酸アルコール

調合

  • 無水エタノール:85 ml
  • 40%ホルムアルデヒド:10 ml
  • 氷酢酸:5 ml
  • 固定時間:1~6時間

推奨用途

ホルマリン色素を生成することもできる酢酸の存在により、アルコールホルマリンよりも速く作用する薬剤です。診断用クライオスタット切片の固定に使用されることもあります。最初の固定に使用する場合、標本は95%エタノールに直接入れて処理することができます。

市販されている固定液

ここ数年の間に、組織病理学および医学研究で使用するために開発された市販の固定液の数が増加しています。それらは一般に、従来のホルマリン固定液より危険性の少ない代替品として、または、B5など水銀を含む固定液混合物より毒性の少ない代替品として売り出されています。

MSDSを提供する必要がある場合でも、これらの試薬の正確な組成は通常公開されておらず、潜在的なユーザーは試薬の一般的な説明で何とかするしかありません。B5とツェンカーの代替品として推奨されているもの(リンパ組織や造血組織の固定に一般的に使用されます)には、通常、亜鉛またはバリウム塩と低い割合でホルムアルデヒドが含まれますが、 ホルマリンの直接的な代替品 には、グリオキサールおよびその他の成分が含まれていることがよくあります。マイクロ波支援固定に推奨される試薬が見つかるのは後者のグループです(パート5参照)。エタノール、メタノール、イソプロパノールは、いくつかの試薬に含まれています。5

 

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図2:市販されている固定液2例(当社製品)。製造元によると、アルコール、塩化バリウム、10%ホルマリンを含む「Fix-All」は、水銀を含有するB-5固定液の代替品として、あらゆるタイプの組織の固定に推奨されています。「O-Fix」には、アルコール、ホルマリン、酢酸が含まれており、あらゆるタイプの組織の固定に使用できますが、特に解剖中にリンパ節を明確に示すために推奨されています。

どの固定液を使用すべきでしょうか?

ほとんどの定評のある検査室では、日常的に使用する固定液はすでに選択されており、長きにわたって、さまざまなタイプの標本に対して使用されています。病理学者、組織学者や研究者は、特定の固定液および処理スケジュールによって生成される組織形態の特徴を解釈することに、完全に慣れるようになります。ほとんどの場合、通常の固定液は中性緩衝ホルマリンであり、骨髄トレフィン(おそらく亜鉛ホルマリン)、腎生検、凍結切片などに使用する他の薬剤を併用します。緩衝ホルマリンは、おそらく最も融通のきく薬剤であるため、広く使用されています。緩衝ホルマリンは密閉型ティッシュプロセッサーの処理スケジュールにに組み込むことができます。それにより、さまざまな特殊染色をうまく適用することが可能になります。免疫組織化学的検査 法は、通常抗原賦活化ステップを含みますが、ホルマリン固定組織用に最適化されており、大きな悪影響なしに組織標本をホルマリンで長期間保存することができます。ISHなどの分子技術もホルマリン固定組織での使用が検証されています。新規または代替の固定液を評価しなければならないということは、これらの特性に反します。5-6

一部の検査室は現在ホルマリンをより毒性の低い試薬で置き換えることを検討しており、前の段落で説明したいくつかの代替法があります。特定の組織成分が研究されている研究環境では、固定ステップに対する制御可能性が大きく、最終的な決定を行う前にいくつかの試薬をテストすることは価値があります。固定液の変更を考えている場合は、顕微鏡で見た結果を評価することに加えて、以下の特性を考慮してください:

  • 固定液の毒性(短期および累積の両方)
  • 揮発性成分とその成分へのスタッフの曝露を防止するために利用可能な設備
  • 引火性
  • 組織に対する過剰固定の影響(長時間の固定は組織に損傷を与えるか?)
  • 標本を固定液に残せない場合の保管要件
  • 固定液とティッシュプロセッサーの互換性(成分に損傷を与える可能性があるか?)
  • 使用後の廃棄の実際的および法的要件

別の固定液に変更するためには、非常に慎重な検討と徹底的な評価が必要です。

この記事の原文は こちら

About the presenter

Geoffrey Rolls , BAppSc, FAIMS

Geoffrey Rolls is a Histology Consultant with decades of experience in the field. He is a former Senior Lecturer in histopathology in the Department of Laboratory Medicine, RMIT University in Melbourne, Australia.

References

  1. Eltoum I, Fredenburgh J, Myers RB, Grizzle WE. Introduction to the theory and practice of fixation of tissues. J Histotechnol 2001;24;173 -190.
  2. Leong AS-Y. Fixation and fixatives. In Woods AE and Ellis RC eds. Laboratory histopathology. New York: Churchill Livingstone, 1994;4.1-1 - 4.1-26.
  3. Hopwood D. Fixation and fixatives. In Bancroft J and Stevens A eds. Theory and practice of histological techniques. New York: Churchill Livingstone, 1996.
  4. Carson FL. Histotechnology. 2nd ed. Chicago: ASCP Press, 2007.
  5. Titford ME, Horenstein MG. Histomorphologic Assessment of Formalin Substitute Fixatives for Diagnostic Surgical Pathology. Arch Pathol Lab Med 2005;129;502-506.
  6. Kothmaier H, Rohrer D, Stacher E, Quehenberger F, Becker K-F, Popper HH. Comparison of Formalin-free Tissue Fixatives: A Proteomic Study Testing Their Application for Routine Pathology and Research. Arch Pathol Lab Med 2011;135;744-752.

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